ラグビーワールドカップと熊谷のバス交通 -会場アクセス問題と解決法-

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令和元年12月22日 朝日自動車久喜営業所にて撮影

 

 多くの日本人に“ラグビー熱”をもたらせたラグビーワールドカップ2019。全国12会場で昨年9月下旬から11月上旬まで開催されていた。日本チームは今大会で初めてベスト8まで進出することができ、その試合の行く末に多くの人が注目した。観客動員数は170万人を超え、1試合平均4万人弱の観客が会場を訪れたことになる。これほどまでに大勢の観客を、会場までどのように運ぶかは大きな問題となった。

 特に問題視されてきたのが埼玉県熊谷市。ロシア対サモア戦やアルゼンチン対アメリカ戦などの予選3試合の会場となった熊谷ラグビー場は、熊谷市北部の熊谷スポーツ文化公園内にあり、JR熊谷駅からも約4.5km、バスでおよそ15分の場所にある。ここでは以前から会場へのアクセスが問題とされてきた。

 

多くの観客が熊谷の街に取り残された

球技ライターの大島和人は「2019年は大丈夫か? 熊谷スポーツ文化公園のアクセス問題を考える」という記事を2017年9月にYahoo! Japan ニュースに投げかけた。当時サッカーJリーグ浦和レッズ鹿島アントラーズ」戦が開催されたのだが、試合後多くの人が会場に取り残されたのだという。観戦客は基本的に、熊谷駅あるいは臨時駐車場から会場までシャトルバスを使用することになっているのだが、この日は帰りのバス待ち行列が大変な長さになってしまい、多くのサポーターが終電の時間までに熊谷駅まで戻れず、会場や熊谷市街に取り残されてしまったのだという。

当時のサッカー大会の観客数が1万人強、ラグビーW杯ではこの3倍近くの観客が会場を訪れることになるが、これでは絶対に会場までのアクセスがパンクしてしまうと取り沙汰された。私もこの日は熊谷駅周辺におり、いつもより駅周辺に人が多いとは感じていたが、まさかこのような事態になっているとは翌朝この記事を読んで知ったのだった。

この日の出来事の問題点は2つある。まず、特に1つの道路に車が集中したことが大きい。熊谷駅や国道17号と会場を結ぶ道路にさいたま博通りと呼ばれる道路がある。ここに会場を訪れた人のすべての車が集中してしまったのだ。会場には当然ある程度の観客用駐車場が整備されており、シャトルバス以外で会場を訪れる人も多く居た。彼らが帰宅する際、大抵この道路を使うため、大渋滞が発生してしまった。その結果、シャトルバスは駅や駐車場までを往復するのに通常3、40分のところ、その倍以上の時間がかかってしまったのであった。

また、熊谷駅と会場を結ぶシャトルバスは運賃を収受する路線バス形式で運行をおこなっているため、シャトルバスを運行できる事業者が2事業者しかなく、供出できる台数も限りがあったことが、問題の拡大につながってしまった。

 

会場アクセスにおける臨時BRTの実施

ラグビーW杯の当日、熊谷市は臨時BRTを実施しアクセス問題に対する対策をおこなった。BRTとは、バス・ラピッド・トランジットBus Rapid Transit)のことで、バスを基盤とし、専用道路や専用車線を用いて大量輸送をおこなう仕組みのことである。熊谷市は、ラグビー輸送に関わる道路として、2019年4月にさいたま博通りから名称変更したラグビーロードを所定の時間、交通規制しバス専用道路とした。交差点の信号も埼玉県警主導のもと、すべて青に変更し、駅やシャトルバス乗り場と会場を片道10分弱で結べるようにした。

このほか隣の籠原駅と会場を結ぶシャトルバスや、羽生・森林公園・太田の各駅からの予約制バス、郊外の駐車場とのパーク&ライドなど、あらゆる輸送手段も用意されていた。最も利用者の多かったのは熊谷駅と会場を結ぶシャトルバスであったが、非常にスムーズな運行で、大島氏の言葉を借りれば、3万人近くの観客をしっかり“さばける”用意ができていた。

 

熊谷BRTの常設化にむけた動き

 以前から、熊谷市はBRTの導入に向けて模索をおこなってきていた。今回のラグビーW杯での事例を踏まえて、BRTの導入に向けても一歩前進できたに違いないと感じている。あれだけの人員をスムーズにさばくことができたのだ。BRTやバス専用道路・専用車線の重要性に多くの人が気付いたようにも感じる。

 かつて、群馬県太田駅から新幹線の通る熊谷駅と武蔵丘陵森林公園を経由し森林公園駅まで伸びる「森林埼群軌道新線(仮)」という鉄道線を敷く計画があった。この路線が実現していれば、ラグビーW杯の輸送体系も変わった形で行われていたのかもしれない。

 現在、この計画は下火ではあるが、バス専用道をこの区間に敷設し、熊谷BRTとして再計画してみるのもまたひとつ有効かもしれない。熊谷スポーツ文化公園と熊谷駅間の移動手段としてだけではなく、群馬県南部から埼玉県北部への縦貫的な移動として、確かに必要としている人が少なからずいるように感じる。

 ラグビーW杯の日本開催は成功するのかと多くの識者は懐疑的に見ていたそうだが、日本中にラグビー旋風を巻き起こし、多くの日本人に“ラグビー熱”をもたらせた。大成功のうちに終わったといえよう。こうしたきっかけで生まれたさまざな成功事例や成功体験は、今後も活用できる体制をうまく整え、見捨てることなくしっかりと“再利用”してほしいものである。

 

(本文 2,093文字)

  

 

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※ 大学院の課題で執筆したものを加筆修正なく公開しています.

※ 令和2年1月14日執筆・提出分