交通地理学の学界展望(2002年)
はじめに・学界展望とは?
世界には様々な学問(学び)の世界があります。これを「学界」といいます。その中のある程度、同じ学問を修めた人々がまとまって”学会”を成立させます。
学会は、学問や研究の従事者らが、自己の研究成果を公開発表し、その科学的妥当性をオープンな場で検討論議する場であります。
この学界の1年間の展望をまとめたものが学界展望になります。
地理学界では、人文地理学会の会誌『人文地理』において学界展望を掲載しています。
会誌『人文地理』では,毎年第3号に「学界展望」を掲載しています。これは前年における人文地理学の動向を分野ごとにレビューするもので,他誌にはない特徴として好評を得ています。第59巻(2007)からは,「学界展望」で紹介した文献のリストを公開しています。
この学界展望に登場する論文をリスト化,筆者のコメントを簡潔にまとめなおしたものが本記事になります。
交通地理学の学界展望・2002年
執筆者情報
三木 理史(みき まさふみ)
所属:奈良大学文学部地理学科教授
学位:博士(文学) - 関西大学,修士(文学) - 関西大学
分野:交通地理学,歴史地理学
三木 理史 教授・博士(文学) | 教員紹介(文学部) | 大学概要 | 大学案内 | 奈良大学
三木 理史 (Masafumi MIKI) - マイポータル - researchmap
学界展望情報
人文地理における交通地理学の分類:交通・観光
人文地理における学界展望掲載巻号:55巻3号(2003年)
付記:特記なし
学界展望文献目録
かつて長い研究史を誇る交通地理学に対し,観光地理学は歴史が浅く,その亜流の1つのように見られていた.ところが,近年その傾向は完全に逆転しており,交通に軸足を置く者が「軒先貸して母屋を獲られた」嫉妬を感ずるほど地理学の観光研究は目覚ましい.そして,本展望でも観光は同じ第三次産業に属する交通と一括されてきたが,近年の観光研究の視角は山村や環境問題研究のそれに近く,研究の枠組自体が大きく変化して,両者は次第に隔たりつつあることが感じられる.
- 量的に寂しい交通研究
森正人(2002):近代における空間の編成と四国遍路の変容.人文地理,54-6.
移動手段の多様化と国内観光の流行した戦間期に着目して四国遍路の変容を論じて交通・観光両分野を架橋する
中牧崇(2002):群馬県藤岡市高山地区における交通の近代化と山村の変容.地理学評論,75-7.
山村研究で蓄積されてきた論点を深めている.今後交通研究の側に立った問題提起も期待される.
三木理史(2002):戦間期大阪市の都市膨張対応と交通調整.地理学評論,75-1.
戦間期の都市計画事業と交通調整の関係を論じた.
- 水運・水上交通
酒井多加志(2002):釧路港における港湾空間の発達過程.地学雑誌,111-1.
高荷久昌(2002):東京湾の港湾における環境施設の形成過程と地域特性.季刊地理学,54-2.
いずれも経済機能論先行の港湾研究に,各々景観復原と環境論の視角を加える意欲作かつ労作だが,機能論的研究で蓄積された論点との空隙の埋め方が今後の課題となろう.
松田千晴(2002):昭和初期の伊勢湾周辺地域における水運.岐阜地理,44.
三浦聡(2002):明治中期の岐阜県美濃地域における諸船の利用規定にみる河川利用.愛教大・地理学報告,95.
水運史の貴重な成果である.紙幅の関係で両分野共に多くの成果を割愛した.
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